全国若手町村長会 「孤立対策など自治体の福祉サービスについて」をテーマにオンライン勉強会を開催
2026年8月7日、全国若手町村長会は、元厚生労働事務次官であり、現在は全国社会福祉協議会会長を務める村木厚子さんを講師に迎え、オンライン勉強会を開催しました。当日は全国から30名を超える町村長や自治体職員が参加しました。
少子高齢化と過疎化が加速する日本の町村部においても、住民の「孤独・孤立」は個人の問題と捉えるのではなく、「福祉」の制度として困っている方をしっかりサポートすることが必要です。行政サービスを限定的な枠組みではなく、いかにして「住民を守る強固な網の目」として地域社会に根付かせるか。村木さんのご講演の内容は、町村自治体経営における考え方の核に迫るものでした。

■「孤独・孤立」と「困窮」の関係:制度の谷間に落ちるメカニズム
村木さんは、生活困窮者自立支援法の策定過程で得た知見に基づき、困窮に陥る人々の二大共通点として「複数の困難が重なっている」ことと「社会とのつながりが切れている」ことを挙げました。既存の福祉制度は年金や介護といった「縦割り」の機能としては優れていても、社会から孤立した個人はこれらの制度に自ら辿り着くことができず、結果として制度の谷間が生まれてしまいます。このように「社会とのつながり」が途切れてしまうと、いくら制度が存在していても、福祉が社会インフラとして十分に機能しないおそれがあると指摘しました。

また、全国調査の結果から、孤独感は属性以上に「頼れる人がいるか」「相談相手がいるか」、そして「気軽に話せる相手がいるか」等に直結している事実が浮き彫りとなりました。ここで村木さんは「健康日本21」という国民の健康づくり運動の事例を紹介しました。その当初の計画が目標を達成できなかった要因を車に例えると、ガソリンが満タンでしっかり整備がされていても、肝心の「車の行き先・目的地(社会的な役割や関係性など)」が分からないとうまくいかないことを示唆として共有しました。そのため、住民が「あそこに行きたい」と思えるような社会的な目的地(やってみたいことや活動の場など)を創出することに注力する必要があると説明されました。
■心理的安全性のある「居場所」の重要性
事後対応型の「相談窓口」には限界があるため、日常生活の中に「人との繋がり」を常に織り込んでおくことが大切です。相談に辿り着くためには、相談するまでの間に「自分の状態をうまく言葉にする」「初めて会う人に助けを求める」という相談者にとって高い壁のようなものがあります。真に支援を必要とする方とつながるためには、行政は「相談機能」の整備以上に、心理的ハードルのない「居場所(存在そのものが許される空間)」をいかに地域社会の中に埋め込んでいくかが問われます。
東京大学の熊谷晋一郎氏の言葉を引用し、村木さんは「『自立』とは依存しないことではない。たくさんのものに少しずつ依存できるようになることである」という考え方を提示しました。徳島県の町に伝わる「病は市(いち)に出せ」という言葉には、病や困りごとを「市(公の場)」に出して個人で抱えない、という地域の知恵が宿っています。互いに少しずつ依存し合える文化を醸成することが、結果として個人の自立を支える土壌となります。
■「綱(つな)」から「網(あみ)」への転換
従来の福祉サービスは、困っている人へ垂らす「一本の命綱(ロープ)」のようなものでした。しかし、複数の困難を抱え、余裕を失っている人にとって、一本のロープを両手で掴み続けるのは至難の業です。別の問題に直面して片手が離れた瞬間、そのまま落下してしまうリスクを常に孕んでいます。
これからの地域福祉が目指すべきは、一本の太い綱を作ることではなく、細い糸であってもそれを横に繋ぎ合わせ、無数の「結び目(連携)」を作る「網(ネット)」を作ることです。専門職だけでなく、住民、NPO、企業などが重層的に関わり、地域の中に無数の結び目を作る。そうすることで、たとえ一箇所の糸が切れても、網のどこかがその人を受け止め、支え続けることができます。多様な主体のパートナーシップを繋ぎ合わせ、地域の中に「網」を編み上げる連携力を持てる自治体こそが、結果として「誰一人取り残さない」、真に住みやすい地域になるのではと語っていただきました。

■終わりに
参加した町村長からは、行政と社会福祉協議会(社協)との連携や、経済活性化と福祉のバランス、担い手不足への対応などの質問が寄せられました。また「心理的安全性が確保された居場所で、互いにつながりを深める」ことは、孤軍奮闘しがちな自治体経営者である町村長自身にも響きました。複雑化する課題に対し首長一人が悩むのではなく、仲間や専門家、そして住民という多様な方々を頼りながら地域の課題解決に挑戦していくことの重要性を再確認しました。
今後も全国若手町村長会では勉強会等を通じて、地域住民の幸せや持続可能な地域づくりのために、若手町村長同士が共に本音で研鑽し、地域の課題解決や活性化に取り組むことを目的に活動を続けていきます。



